試料の種類の検討#

撮影する試料の種類には多くの選択肢があり、試料調製の技術や画像化モダリティの進歩により、さらに多様で複雑な生物学的試料のイメージングが可能になってきています。実験計画の他の多くの側面と同様、試料の種類の選択にはトレードオフがあります。簡便な調製とイメージングが可能な試料は、培養細胞の単層膜のように、小さく、薄く、比較的透明である傾向があります。このような試料はハイスループットでイメージングが可能であるという明らかな利点がありますが、すべての生物学的な疑問に適しているわけではありません。特に、異なる細胞種間の相互作用に関わる疑問をテーマにする場合は、オルガノイドのような厚みのある標本や、全組織や切片化された組織が必要になることがあります。どのような生物学的文脈が自分の疑問に適切で、最終的にどのような測定ができるようにしたいかを慎重に検討する必要があります。以下に一般的なサンプルの種類をまとめます。

🤔 選択肢

ここでは試料のタイプについて、いくつかの主要なカテゴリーを紹介します。これらのカテゴリーの間には、厳密な境界があるわけではありません(例えば、細胞もオルガノイドも3D培養が可能であり、ライブイメージングも固定 fixation 後の撮影も可能です)。以下では、一般的な利点と欠点をまとめます。

培養細胞

多くの異なる種類の細胞を培養、つまりシャーレの中で増殖させることができます。細胞は、1種類の細胞のみの単一培養 monoculture として、または複数の細胞種を含む共培養 co-culture として増殖させることができます。

利点

  • 培養細胞は比較的簡単に撮影でき、多くのテーマでは、共焦点法や超解像法よりも迅速で利用しやすい広視野顕微鏡で撮影可能です(Acquisitionを参照)。さらに、ロボティクスと統合されたハイスループット顕微鏡を使えば、培養細胞を用いた実験やイメージングの自動化が可能です。

  • 細胞はオルガノイドや生体全体のようなより複雑な標本と比べて、凍結・解凍・培養をより迅速に行うことができ、実験にかかる期間を短縮できます。

欠点

  • 顕微鏡のほとんどの用途では、特定の厚みと公差を持つカバーガラスを通して撮像することを必要とします。しかし、多くの種類の細胞はガラス上では生存できないか、増殖できないため、サンプルの健全性を確保するために、追加のコーティングやカバーガラスの操作が必要となります。代替手段として、ガラスに似た性質を持つ独自のポリマー(光学ポリマー)を使用したイメージング用チャンバー(マルチウェルプレート、35mmディッシュ...)を製造している企業もあり、高解像度イメージングが可能です。撮像時に使用する浸液がこれらのポリマーの完全性に影響を与えるかどうかを理解することが不可欠です。これは、一部のイマージョンメディアに含まれる溶媒がポリマー層にひびを入れたり溶解させたりする可能性があるためです。

オルガノイド

オルガノイドとは、3次元的に細胞を培養し、臓器の構造や機能を模倣したものです。オルガノイドは通常、幹細胞から培養され、自己組織化し、異なる細胞型に分化するなど、より複雑な構造を持つようになります。オルガノイドは、発生、疾患のモデル化、組織や臓器の再生の理解に適しています。

利点

  • オルガノイドは複数の種類の細胞を含み、生体内の臓器で見られる構造や細胞の関係をある程度反映しているため、疾患や細胞間相互作用に関するより複雑な問題に適しています。また、多くの発生過程のように、平坦な細胞層ではうまく再現できない、本質的に3次元的なプロセスや構造のモデル化にも利用できます。

  • オルガノイドは、ヒトや動物のサンプルから採取した人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作ることができるため、あるドナーに特異的な疾患プロセスをモデル化できます。

欠点

  • オルガノイドの成長にはより複雑なリソースとプロトコルが必要となり、ガラスやプラスチック上で培養細胞を成長させるだけの場合よりも時間がかかることがあります。

  • オルガノイドは3次元構造であるため、広視野イメージングができないことが多く、スピニングディスク顕微鏡やポイントスキャン共焦点顕微鏡が必要になることがあります。

組織

組織とは、細胞が協調して特定の機能を果たすことで形成される構造です。組織は、動物や植物の一部を取り出し、培養皿の中で生存・増殖させて培養することができます。また、植物や動物から組織を採取し、さまざまな分子の存在を調べるために染色することもあります。組織は通常、薄く切り分けて用いられます(組織切片作製 tissue sectioning )。さらに、固定標本、未固定の新鮮標本、凍結標本として扱われるほか、生体外イメージング ex-vivo imaging のように生きた状態で観察されることもあります。

利点

  • 組織では細胞間の相互作用がより完全な状態にあり、これは一般に細胞培養よりも生体内で起こっていることをよりよく表します。

  • ヒト組織のレポジトリにより、生物医学研究が特定の疾患を持つ患者の多様なサンプルを扱うことが可能になります。

欠点

  • 初代細胞および組織は、不死化細胞株よりも環境に敏感な傾向があり、増殖がより困難になる可能性があり、細胞の種類に応じて特殊なプロトコルが必要になる場合があります。

  • 動物や植物全体から採取した組織は、採取前にその標本が発達し成長する時間が必要です。

生物全体/胚

一部の生物は全体が薄く透明で、そのまま撮像可能です。あるいはゼブラフィッシュのように、胚の段階がほぼ透明な動物もいます。さらに、生体内イメージング intravital imaging は、臓器を摘出したりサンプルを固定したりせずに、生きた動物の内部の細胞構造や生物学的プロセスをリアルタイムで撮像することです。一般に、多光子顕微鏡などの光の透過性が向上した特殊な機器や手法が必要であり、多くの場合は光学窓を通して特定の臓器にアクセスする機能に制限があります。

利点

  • 生物全体または胚の撮影は、特定のプロセスまたは構造を研究する際に、最も完全に生物学的コンテキストが得られる方法です。

欠点

  • より厚い標本をイメージングする場合は、試料の屈折率 refractive index とイメージング媒質の屈折率を一致させ、光の吸収と散乱を減らすために、サンプルの処理 (組織透明化 tissue clearing) が必要になる場合があります。

  • 生体内イメージングには多くの場合、特定の外科手術の技術が必要であり、生命倫理委員会によって監督され、IACUC やその他の機関の委員会による承認が必要です。

⚠️ 問題が生じやすいポイント
  • 褪色と光毒性 - 褪色は、励起状態の蛍光体が不可逆的に破壊されることです。いったん破壊された蛍光色素はそれ以上光を発することができなくなるため、時間の経過とともに蛍光シグナルが弱まり、S/N比や強度測定に影響を及ぼします。撮影中の褪色を最小限に抑えるために、培地に添加できるさまざまな抑制試薬があります。これらの試薬は蛍光色素の褪色を抑える効果がそれぞれ異なるため、使用する蛍光色素に適しているかどうかを製造元に確認することが重要です。例えば、グルコースオキシダーゼやピラノース2-オキシダーゼなどの脱酸素剤 oxygen scavengers をイメージング用培地に添加すると、褪色を大幅に低減できる場合があります。 ただし、脱酸素剤を使うと、ライブセルイメージングに影響を与える可能性がある点に注意が必要です。これらの試薬は試料中のATP濃度や酸素レベルに影響を及ぼし、細胞の生存性や生物学的機能を損なう可能性があります。

  • 細胞が死んでいる場合 -蛍光励起光は、DNA損傷や細胞内成分の酸化を引き起こすことがあります(光毒性)。さらに、蛍光色素の褪色は活性酸素種(ROS)を生成し、光毒性を一層強める可能性があります。撮影中に生じる活性酸素種を減らすためには、抗酸化物質を添加したり、特定の分子(リボフラビンなど)をイメージング用培地から除去したりする方法があります。これにより、試料の生存性を改善できる場合があります。6

  • 固定した細胞が予想どおりに見えない場合 - 固定処理は、さまざまなタンパク質の局在や蛍光シグナルに影響を与えることがあります。可能であれば、関心のあるタンパク質や分子の分布を、固定ありの場合と固定なしの場合で比較するようにしてください。また、使用している固定法が試料に適しているかどうかを検討し、必要に応じて別の固定 fixation 法を選択することも重要です。

  • 試料が不透明すぎる場合 - 厚い組織切片、色素を多く含む細胞、あるいは個体全体のような厚みのある試料は、撮像が難しいことがあります。これは、組織内部における 屈折率 refractive index の不均一性によって光の吸収や散乱が生じ、光が十分に透過しないためです。組織の観察を容易にするために、厚い組織をさまざまな厚さに切り分ける方法が一般的に用いられます。この操作を組織切片作製といいます。多くの場合、試料は固定後にパラフィン包埋するか、凍結包埋してから、クリオスタット、ミクロトーム、ビブラトームなどの装置で薄切し、切片をチューブやスライドガラス上に回収します。しかし、臓器のような複雑な生体構造では、多くの構成要素が二次元的な切片内に収まりきらないため、この方法では細胞成分同士の空間的な関係を十分に理解できない場合があります。そこで用いられるのが組織透明化です。これは、試料全体の屈折率 refractive index を均一化することで組織内の不均一性を減らし、光が透過しやすくする手法です。これにより、試料を物理的に切片化することなく、共焦点顕微鏡などの従来の顕微鏡技術を用いて、臓器や組織全体を高解像度で三次元的に観察できます。

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